営業パイプライン設計:ステージ定義の例と決め方

新里 考司

営業パイプライン設計
目次

営業パイプライン(案件管理)のステージは、「名前」ではなく「入口条件・出口条件・必須情報(入力項目)・次アクション」で定義すると、現場が迷わず進められ、レポートと会議が機能します。
本記事では、一般的なステージ例(5〜8程度)をベースに、自社に合わせた決め方の手順と、コピペで使えるテンプレ表・KPI・週次運用(会議体)までまとめます。翌週から運用開始できることがゴールです。

まず結論:ステージ定義は「行動と判定」で作る

  • ステージ=“気分の温度感”ではなく、「満たしたら次へ進む条件(出口条件)」で定義します。
  • 各ステージで集めるべき情報(必須項目)を決めます。情報が揃うほど、次の提案や判断がしやすくなります。
  • CRMではステージ遷移ルール(飛ばし禁止/必須項目のゲート)と、週次のレビュー(会議体)で定着させます。

ポイント:「ステージ名」を並べるだけでは、案件は前に進みません。
“次へ進める条件”と“次にやること(ToDo)”までセットにして初めて、現場で使えるパイプラインになります。

一般的な営業パイプラインのステージ例(日本のB2B向けに翻訳)

業界や商材で違いはありますが、主要ベンダーの解説で共通しやすい流れは概ね以下です(7前後)。 自社の営業プロセスに合わせ、名称は運用しやすい日本語に寄せて構いません。

よくある並び(例:7ステージ)

  1. 新規接触(受付):問い合わせ・紹介・リストなどで接点が発生
  2. 適格化(Qualification):案件化するか判断(条件・優先度が見える)
  3. 初回ヒアリング(Discovery):課題・要件・関係者を把握
  4. 提案/見積(Proposal):提案書・見積を提示
  5. 条件調整/稟議(Negotiation):条件・スコープ・稟議を前に進める
  6. 受注(Closed Won):契約・発注・確定
  7. 提供/引継ぎ(Post-purchase):納品/運用開始・CSへ引継ぎ

※「提供/引継ぎ」をパイプラインに含めるかは組織次第です(営業とCS/運営の境界が曖昧な場合は入れると事故が減ります)。

ステージ定義の決め方(最短で決め切る手順チェックリスト)

ここが本題です。会社ごとに違う前提で、“ズレずに決め切る”ための手順をテンプレ化します。 まずは「現状の動き」から出発し、「節目」を抽出し、入口/出口/必須項目/KPIへ落とします。

Step A:現状の営業プロセス(As-Is)を列挙する

  • リード発生源:フォーム/電話/ポータル/メール/紹介…
  • 初動:誰が、いつまでに、何を返すか(一次返信・担当割当)
  • ヒアリング→提案→見積→稟議→契約→引継ぎの流れ(実態ベース)

Step B:成果に直結する“節目(意思決定の変化点)”を抽出する

  • 「ここを超えると受注確度が上がる」節目だけをステージにします。
  • 目安:5〜8ステージ(多すぎると更新が止まりやすい)。
  • 例:初回MTG確定/要件が固まった/見積提示/稟議開始/契約合意

Step C:入口条件(Entry)と出口条件(Exit)を決める

  • 入口条件:そのステージに入れる最低条件(例:連絡先が揃った)
  • 出口条件:次へ進める判定条件(例:見積提示が完了し、次回MTGが確定)

Step D:各ステージで“必須で集める情報(必須項目)”を決める

  • ステージごとに「この情報がないと前に進めない」ものを定義します。
  • ポイントは“現場が入力できる粒度”に落とすこと(抽象語にしない)。

Step E:KPI(転換率/滞留/量)と「次の一手(ToDo)」を決める

  • 転換率:どこで落ちているか(改善ポイントの特定)
  • 滞留(aging):止まっている案件の見える化(追客漏れ防止)
  • 量(件数/金額):足りないステージを補う(上流の手当)

Step F:CRMに落とす(ルール/自動化/権限/会議体)

  • ステージ飛ばし・後戻り・作成可能ステージなどの遷移ルールを決める
  • 必須項目未入力で進めない入力ゲート(stage-gating)を検討
  • 週次会議で使うダッシュボードを固定(会議で使わないCRMは定着しません)

最初の30分でやること(現状診断チェック10)

  1. 案件が発生するチャネルをすべて書き出した(フォーム/電話/ポータル/メール等)
  2. 「一次返信の締切(SLA)」が決まっている
  3. 担当割当のルールがある(手動でも可)
  4. 「案件化」の判断基準がある(最低条件)
  5. 見積・提案のテンプレがある
  6. 稟議/決裁者が誰かを把握する項目がある
  7. 次アクション期限が案件に必ず入る
  8. 失注理由が統一コードで入力される
  9. 滞留(止まっている案件)を週次で見ている
  10. ステージ定義を変更する責任者(オーナー)が決まっている

コピペ用:ステージ定義テンプレ(5〜8推奨)

以下は汎用B2B向けのテンプレです。自社の実態に合わせて、ステージ名・必須項目・出口条件を編集して使ってください。 「出口条件」と「必須項目」がセットになっているかが品質の分かれ目です。

ステージ 入口条件(Entry) 出口条件(Exit) 必須項目(最低限) 次アクション(ToDo) 自動化候補
1. 受付 連絡先が取得できた 一次返信完了+担当確定+次回接点が決まった 会社/氏名/メールor電話、流入チャネル、問い合わせ種別 受付返信、ヒアリング日程提案 自動返信、担当割当、タスク生成
2. 適格化 接触が成立 案件化(進行)or 保留/失注の判断ができた 課題/用途、時期、予算感、決裁者有無、競合有無 要件ヒアリング設計、次回MTG確定 必須未入力は進捗不可(ゲート)
3. ヒアリング/要件整理 案件化OK 要件が文書化され提案方針が合意 要件詳細、関係者、優先順位、判断基準 提案骨子、提案資料の作成 次回期限リマインド
4. 提案/見積提示 要件が揃った 見積提示+稟議/検討が開始 スコープ、見積金額、納期、前提条件、提示日 質疑対応、稟議支援、再提案 提示時に社内通知、テンプレ送付
5. 条件調整/稟議 提案提示済み 条件合意(契約手続き開始) 懸念点、調整事項、決裁日、次回期限 条件確定、契約準備、エスカレーション 滞留超過で通知/上長レビュー
6. 受注(Won) 最終合意 契約締結(発注/入金条件確定) 契約日、金額、開始日、請求条件 キックオフ、引継ぎ CS/運用へタスク自動作成
7. 失注(Lost) 失注確定 失注理由が記録され学びが残る 失注理由(統一コード)、競合、差分 分析、ナーチャリング計画 失注理由必須、再接触タスク

ステージ数を増やすときは、先に「どのKPIが改善されるか」「現場入力が増えないか」を確認してからにしましょう。

ステージ別KPIセット(週次運用で使える)

パイプラインを“会議で使える”状態にするには、KPIを転換率(移行率)・滞留(aging)・量(件数/金額)で揃えるのが基本です。 まずは「見る頻度」と「見る場所(画面)」を固定します。

KPI 定義(例) 見る頻度 見る場所(例) 落とし穴
ステージ間転換率 例:ステージ2→3の移行数 ÷ ステージ2流入数 週次 CRMレポート ステージ飛ばしがあると歪む(ルールで防ぐ)
滞留(aging) 各ステージの滞在日数(平均/中央値/閾値超過件数) 週次 CRMの滞留レポ/一覧 「次アクション期限」が無いと改善できない
パイプライン量 ステージ別の案件数/見込み金額 週次 パイプラインダッシュボード 金額が未入力だと予測が死ぬ(必須化検討)
受注率(Win rate) 受注 ÷(受注+失注) 月次 Won/Lost集計 失注理由が未入力だと改善に繋がらない
失注理由入力率 失注のうち理由が入っている割合 週次 データ品質モニタ 自由入力だと集計不能(コード化推奨)

KPI設計のコツ:最初から完璧にしない。まずは「転換率・滞留・量」の3点が週次で見える状態にし、改善サイクルを回しながら項目を増やします。

週次運用(会議体)テンプレ:パイプラインレビューを“作業”にしない

パイプラインは更新されないと価値が落ちます。更新頻度は組織次第ですが、少なくとも週次での更新・レビューが推奨されるケースが多いです。 重要なのは、会議を「報告会」にせず、ボトルネックの解消と次アクション決定に集中することです。

週次パイプラインレビュー(30〜45分)アジェンダ例

  1. データ衛生(5分):ステージ未更新、必須項目欠落、次アクション期限なしをゼロにする
  2. 滞留(10分):滞留上位から処理(何が詰まり?誰が?いつまでに?)
  3. 転換率/量(10分):落ちているステージを特定し、上流/中流の手当を決める
  4. 意思決定(10分):値引き判断、提案リソース追加、上長同席などの支援を決める
  5. 宿題化(5分):CRMタスクに落として期限を付ける(会議で決めて終わりにしない)

見るべきダッシュボード(最低限)

  • ステージ別:案件数/金額(量)
  • ステージ別:滞留(aging)上位一覧
  • Won/Lost件数、失注理由

CRMに落とし込むポイント(項目・ルール・自動化)

1) ステージはダッシュボードの軸になる(更新されないと全てが崩れる)

多くのCRMでは、ステージ情報がチャート/ダッシュボードに使われます。つまり、ステージが古い=レポートが嘘になります。 「ステージを最新に保つ」こと自体をルール化し、会議体で運用に組み込みましょう。

2) ステージ飛ばし/後戻り/作成可能ステージを制御する

ステージ飛ばしが多いと、転換率が歪み、ボトルネックが見えません。 CRMによっては、飛ばし禁止・後戻り制限・作成できるステージの制限などのルール設定ができます。

3) 必須項目のゲート(stage-gating)を段階的に入れる

最初から必須項目を増やしすぎると入力負荷で止まります。 まずは「次アクション期限」「失注理由」など、運用の背骨になる項目から必須化し、定着を見ながら増やすのがおすすめです。

失敗例TOP5(原因→早期サイン→回避策)

No 失敗原因 早期サイン 回避策(ルール/仕組み)
1 ステージ名だけで定義がない 人によって同じステージの意味が違う 出口条件(Exit)を文章化し、次の一手(ToDo)まで固定
2 ステージが多すぎる 更新が止まる/「どこに入れる?」が増える 5〜8程度に絞り、節目だけをステージにする
3 必須項目が揃わない レポートが空欄だらけで使われない ステージ別に必須項目を決め、段階的に必須化(ゲート)
4 滞留(aging)管理がない いつまでも同じステージに放置 次アクション期限を必須化し、週次で滞留上位から処理
5 変更管理がない(定義が増殖) 部署/拠点で定義がズレる オーナーを決め、変更申請→影響確認→教育→リリースの手順をSOP化

施設運営(会場/ホテル/結婚式場)への当てはめ例

Space Activationは、貸し会議室・イベントホールの集客/運用支援に携わっています。 施設運営は「問い合わせ→見積→下見/内見→確定→当日→請求→リピート」のように、営業と運営が一体になりやすい業態です。 だからこそ、ステージ定義があると属人化を減らせます。

例1:ホテル宴会/団体(問い合わせ→見積→下見→確定→請求)

  • 受付:希望日/人数/用途/連絡手段が揃ったら担当割当(一次返信SLA)
  • 適格化:空き・最低条件(予算/時間帯)を確認し、案件化判断
  • 要件整理:レイアウト/備品/料理/導線/禁則・支払条件を確定
  • 見積提示:見積版数・期限を管理(質問回収→再提案)
  • 条件調整:稟議期限、決裁者、懸念点を記録(滞留を防ぐ)
  • 確定:当日オペ、最終人数締切、請求条件まで引継ぎ

例2:結婚式場(資料請求→来館予約→見学/相談→見積→試食→契約)

  • 受付:資料請求/来館予約を別Key eventにして入口を分ける
  • 来館予約:“日程確定”を出口条件に(未確定は滞留管理)
  • 初回相談:希望時期/人数/予算/親の関与/比較先を必須項目に
  • 見積提示:「見積提示日」「次回期限」「検討ポイント」を必須化
  • 試食/再提案:懸念(価格/日程/導線/料理)を失注理由候補に紐づける
  • 契約:当日までの打合せタスクへ自動引継ぎ

施設運営はチャネルが多い(ポータル/電話/メール/フォーム/SNS)ため、ステージが無いと追客漏れが起きやすいです。 まずは「受付」「担当割当」「次アクション期限」から固めるのがおすすめです。

次の1週間でやること(運用開始プラン)

  1. As-Isの営業プロセスを箇条書きで書き出す(30分)
  2. 節目(意思決定の変化点)を5〜8個に絞る(30分)
  3. 各ステージの入口/出口条件を1〜2行で書く(60分)
  4. ステージごとの必須項目(3〜7項目)を決める(60分)
  5. 「次アクション期限」「失注理由(コード)」を必須にする(30分)
  6. KPI(転換率/滞留/量)を週次で見る形にする(60分)
  7. 週次パイプラインレビュー(30〜45分)をカレンダーに固定
  8. ステージ飛ばし・後戻りのルールを決める(30分)
  9. CRMの入力ルールを1枚のSOPにする(60分)
  10. 2週間後に「ステージ数/必須項目/会議体」を見直す(改善サイクル)

FAQ(よくある質問)

Q1. ステージは何個が正解ですか?
A. 一般には5〜8程度が運用しやすいです。増やすときは「KPIが改善されるか」「現場入力が増えないか」を先に確認しましょう。
Q2. 商材/部門で営業プロセスが違う場合は?
A. 入口・出口条件が大きく違うなら、パイプラインを分ける(複数パイプライン)か、分岐条件を設ける設計が向きます。
Q3. ステージ更新がされません。どうすれば?
A. 「会議で使う」ことが最優先です。週次レビューで“更新されていない案件は扱わない”運用にすると、自然に更新されます。
Q4. 必須項目を増やすと現場が嫌がります。
A. 最初から増やしすぎないこと。まずは「次アクション期限」「失注理由」など、運用に直結する項目から段階的に必須化します。
Q5. 失注理由はどう作れば良いですか?
A. まずは5〜10個程度のコード(価格/日程/競合/仕様/決裁見送り等)から開始し、月次で見直して統合・分割します。自由入力は集計できないので注意です。

参考リンク

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